2020.08.22
7月定例会「『Objectivism: The Philosophy of Ayn Rand』 を読む」報告
先月7月3日の定例会では、アイン・ランドの哲学(=オブジェクティビズム)の概説書、Objectivism: The Philosophy of Ayn Rand(1991年)の一節を読みました。
参加人数は会場4名、オンライン1名の計5名でした。
この本を定例会テキストとして提案されたのは、今年5月に入会された三上哲寛さん。
三上さんは現在法学部四年生。もともと小説も哲学書もそれほど読むほうではなかったそうですが、現代アメリカの著名政治家たちに影響を与えた人物としてしばしば名前が挙がるランドに興味を持ち、『水源』を読んでみたところ、大いに引き込まれてしまったとのこと。
『水源』の特に思想的なおもしろさに惹かれた三上さん、『肩をすくめるアトラス』『アンセム』と読破された後、ランドの思想をさらに体系的に理解したいと考え、「最も包括的かつランドの意図に忠実な解説書」とされる本書を手に取ったそうです。
本書の著者は、アイン・ランドの遺産相続人で哲学研究者のレナード・ピーコフです。
ランドの主要作品を読破している他のARCJ会員も、本書はほぼ未読。今回は、このちょっと取っつきにくい本に目を通す良い機会になりました。
前半で形而上学における三つの公理を土台に認識論・人間論を説き、後半で倫理学・政治学・美学へと展開するのが、本書の構成です。
ランドの思想と言えば、賞賛されるにせよ攻撃されるにせよ、政治経済論や道徳論が取り上げられることがほとんど。しかし三上さんは「ランドの思想体系の中でもより基盤になる部分を」ということで、敢えて前半の認識論、特に人間の自由意志をめぐる議論に着目されました。
読んだ節は第二章「SENSE PERCEPTION AND VOLITION(感覚的知覚と意志)」の第五節「The Primary Choice as the Choice to Focus or Not(焦点を合わせるか合わせないかという第一の選択)」です。
人間に自由意志はあるか? というのは古くから論争されてきた問題ですが、今の哲学者や科学者の間では、どうやら自由意志の存在を否定するのがトレンドだそう。
もちろん、ランドは自由意志の存在を自明とする立場です。
一般に近代科学や無神論の信奉者は自由意志を信じない傾向があり、ランドはその点でもユニークだね、という指摘も参加者からありました。
今回読んだ節では、オブジェクティビズムでは人間に自由意志があると見なすことが最初に宣言された上で、自由意志を人間がどのように発揮しているかが分析されています。選択の連鎖として行われる自由意志の発揮における最初の(かつ以降の選択の基盤であり続ける)選択として、「to focus or not(意識の焦点を合わせるか合わせないか)」の選択があることが論じられています。さらに、意識の焦点を合わせないこと自体を能動的に選択する「evasion」(回避)という選択があり、これが認識論的には自分の理性の無効化を通じた自己破壊への起点であり、かつ倫理学的にはあらゆる悪の根源であることが論じられています。
(自由意志と因果律の関係の検討は次の第六節「Human Actions, Mental and Physical, as Both Caused and Free[原因を持つと同時に自由なものとしての人間の精神的・肉体的行為]」で、決定論自体への批判はその次の第七節「Volition as Axiomatic[自明のものとしての意志]」で行われています)
三上さんからの発表後、自由意志の存在をどう思うか参加者のみなさんに聞いてみましたが、ランドの作品に惹かれる人は自由意志についての考え方も似ているようです。
基本的にARCJのメンバーは、ランドの作品のファンであったり自由主義の支持者であったりはしますが、オブジェクティビズムという思想を(本書の著者ピーコフのように)全面的・絶対的に信奉しているわけではありません。
ですので参加者同士の討論では、オブジェクティビズムにおける言葉の定義の独特さや、ランドの思想を絶対視することの是非などについても、率直に議論されました。
次回8月22日の定例会では、レイシズムに関するランドの論説を読みます。
次回の定例会のご案内はこちら
https://aynrandjapan.org/topics/846/
三上さんによる今回の発表資料はこちら
https://aynrandjapan.org/pdf/20200703-ARCJ-OPA.pdf
今回の配布資料(Objectivism: The Philosophy of Ayn Rand章立ての佐々木訳)はこちら
https://aynrandjapan.org/pdf/OPAR_contents.pdf