ここに紹介するインタビューは、アメリカ版PLAYBOY誌1964年3月号に掲載されたものである。ランドの思想を知るには、その代表作『水源』と『肩をすくめるアトラス』を読むのが一番だが、両作品とも数百ページにわたる長編である。私たちはこのインタビューがもっとも簡潔かつ網羅的にランド哲学のエッセンスを凝縮したオブジェクティビズム入門ともいうべき内容になっていることに注目し、翻訳の全文を掲載する。
PLAYBOY誌は、1953年にヒュー・ヘフナーが創刊し、音楽、ファッション、時事問題など多岐にわたるテーマを深く掘り下げた記事のクオリティーの高さにより一世を風靡したライフスタイル雑誌。表紙やピンナップのヌード写真も有名だが、時の著名人に焦点をあてたロングインタビュー記事に定評があり、ランドのインタビュアーは後年『第三の波』で一躍有名になる若きアルビン・トフラーであった。1960年代は500万部、1970年代は700万部超の発行部数を誇り、1964年のこのインタビューは、アメリカにおけるランド読者拡大の大きなきっかけともなった。
公民権運動が大きなムーブメントとなりつつあった1960年代、PLAYBOY誌は他誌に先駆けて63年にマルコムX、65年にマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師へのインタビューを掲載して話題を呼んだが、なかでも異色のアイン・ランドのインタビューはそうしたアメリカの大転換期におこなわれ、オブジェクティビズムもまた究極の自由思想として多くの若者の心をとらえた。創刊者のヘフナー本人もランドの著作の影響を大きく受けており、自著『プレイボーイ哲学』執筆の際にも意識していたという。
アイン・ランドの思想体系をオブジェクティビズム(客観主義)といいますが、
ARCJはその総本山、米国アイン・ランド協会※の
ヤロン・ブルック氏にその概要を語っていただきました。
聞き手は田村洋一さん。
(※日本アイン・ランド協会は、米国アイン・ランド協会の関連団体ではありません。)
ヤロン・ブルック博士インタビュー [1]
「オブジェクティビズムって何?」
ヤロン・ブルック博士インタビュー [2]
「アイン・ランドって誰?」
ヤロン・ブルック博士インタビュー [3]
「利己主義は悪なのか?」
ヤロン・ブルック博士インタビュー[4]
「オブジェクティビズムは少数派の思想なのか?」
アイン・ランドの哲学が最も威力を発揮するのは、倫理学と政治学、すなわち「人はどう生きるべきか」と「社会はどうあるべきか」のふたつの領域です。
人はどう生きるべきか。
合理的に考え、自分の幸福を追求する個人として、利己的に生きるべきだというのがオブジェクティビズムの答えです。
他人や社会に人生を捧げるのではなく、自分の人生の充実のために生きるべきだというのです。
社会はどうあるべきか。
政府は個人の権利を守る存在として合理的な法に則って運営され、一切の経済への介入をしない、自由な資本主義システムがオブジェクティビズムのゴールです。個々人が自分の人生を生きられるようにするのが政府の役割で、それ以外の、個人を社会に従属させるようなことは一切すべきではないというのです。
しかしオブジェクティビズムは宗教の教義ではありません。
利己的に生きよ。
資本主義的にあれ。
そういう結論だけを都合よくつまみ食いしても、ちっとも合理的に生きることにはつながりません。むしろ逆です。リバタリアンや刹那主義者のように非論理的で非倫理的な生き方や社会に陥りかねません。
最も大切なことは、現実を観て、自分の頭で考えることです。
オブジェクティビズムは、考えるための合理的な方法を与えてくれます。合理的に生きるための指針を与えてくれるものです。
いわば合理的に考え、合理的に生きるためのOS(オペレーティングシステム)です。オブジェクティビズムは「使える哲学」だと思っています。しかしそれはパソコンのアプリのようにダウンロードしてすぐに使えるような安直なツールとは違います。
オブジェクティビズムを学ぶことは、知性のOSをアップグレードするようなものです。それどころか、人によってはOSを丸ごと入れ替えるような羽目になります。それは必ずしも簡単なプロセスとは言えないのです。
田村洋一『サンタフェ通信』2016年2月12日号より
アイン・ランドは政治哲学や文学、芸術、時事問題について多くの論文を書いています。
ARCJでは、小説『肩をすくめるアトラス』から有名な「お金の演説」と、
哲学論文集Philosophy: Who Needs It より、代表的な二本の論文を紹介します。
※ 上記のアイン・ランドの論文は米国アイン・ランド協会(Ayn Rand Institute)の許可を得て掲載しています。
『肩をすくめるアトラス』第二部
第二章「コネの貴族」より
お金とは何か
米国ウェストポイント陸軍士官学校
卒業式(1974年3月6日)での講演
誰のための哲学か
フォード・ホール・フォーラム
(1974年11月17日)での講演
平等主義とインフレーション