2019.04.13
Road not taken
平成の名残を惜しむように、桜がゆっくりと散っている。
『文藝春秋』の五月特別号。平成天皇・皇后の思い出を123人もの人たちが証言していて久しぶりに買いました。お二人と交流のあった人たち、石原慎太郎からYoshikiまで。
被災者を前にひざまづくお二人のお姿はみるたびに目頭が熱くなるけれど、失意のYoshikiが、即位10周年の作曲を依頼されて再び音楽への意欲を取り戻したのは好きなエピソードのひとつ。
なかでも元外交官の小池政行さんの思い出として語られている美智子皇后の言葉が響いた。
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「人が歩んだ道と歩んだことがない道、どちらを選ぶといえば、絶対に『Road not taken』だと思うのです。人が歩んでない道、そこを歩んで行くことこそ大切だと思います」
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別のエピソードで、皇后陛下の心を動かしたのは、「守れないこともあるかもしれないけれど、結婚したい」という言葉だったとあった。戦後まもなく、民主的で平和な国の象徴としての務めをはたしたい、それには貴女の力が必要という切実な訴えに、心を動かされたのだろう。
生まれた時代や生きていく条件で自分が決められることは少ない、皇室に入るならばまして、楽な仕事ではない。誰もやったことがない。失敗するかもしれない。非難されるかもしれない。誰も助けてくれないかもしれないし、責任は重い。でもだからこそ、やる意義がある。
女性の心を動かすのもまた、メリットでも立場でも地位でもなく、使命感なのだと思う。
美智子さまが引用された詩の言葉は、ロサンゼルスのエプコットセンターにあるランドの言葉と似ている。
“Throughout the centuries there were men who took first steps down new roads armed with nothing but their own vision.”- Ayn Rand
「人類の歴史には常に、己のビジョンだけを携えて新たな道へと踏み出すものが存在した」
天皇皇后両陛下を、なにか美しいクラシック音楽のBGMのように感じていたけれど、そうではない。美智子さまは、重い責任をみずから選び取る、革新的でかっこいい女性を体現していらした。保守的で窮屈な日本社会の象徴のような皇室で、いまだ様々な制約のなかで生きる女性たちのロールモデルとなってくださったのだと、いまになってしった。