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BLOG

2018.07.08

スティーブ・ディッコ

Category : 影響
Author : 脇坂あゆみ

スティーブ・ディッコが亡くなった。享年九十歳。

ヒュー・ヘフナーに続き、ランドと同時代にその自由思想に触れて、世界を変えた異才がまたひとり世を去った。

ディッコは、いわずとしれたスパイダーマンのクリエーター。赤いウェッブのスパイダーマンは元祖スーパーヒーローの一人となった。

1927生まれのディッコは、アイン・ランドの思想に大きな影響を受けたひとり。その書簡にはanti-mind、anti-lifeなど、ランドが多用したオブジェクティビズム用語が散見される。孤高のリバタリアンというよりは、かなりガチガチの客観主義者だったようだ。

わかりやすいスーパーヒーローとアンチヒーローの世界観は、そういえばランドの小説と同じ。

ただ、ハワード・ロークやピーター・キーティング、ハンク・リアーデンやジェームズ・タッガートのような小説での極端な人物描写は、リアリティーがないとか、深みがないとかディスられるけれど、漫画のスーパーヒーローにそんな批判をする人はいない。かつ、スパイダーマンは、普段はさえない高校生という設定なので、嫌われようがない。

というより、それこそがスパイダーマンがここまで愛された理由だったのかも。

ヒーローは身近なところにいる。一見、ぱっとしない自分のなかにもヒーローがいる。

「ディッコはコミック史上最高のクリエーターの1人であり、すべての人のなかにヒーローがいることを示してくれた」と、かつてディッコが所属した大手コミック出版社のDCコミックスがツイートしている。

私は、この世界観は嫌いじゃない。

むしろ、ランド作品の価値はそこにあると思う。

アイン・ランド自身は、自称英雄崇拝者(hero-worshipper)であり、自分が好きな英雄を創るために小説を書いているといっていたし、作品を読んで多くの人はエリート主義ともいうけれど、だからといって読者がみな、自分を英雄視したり、本物の英雄を目指したりするわけではない。

人は人。自分は自分。それぞれの人のなかに、ヒーローとアンチヒーローがいて、それぞれの人のなかに独自の偉大さがある。マライア・キャリーのヒット曲Heroの歌詞の通り。

世の中的にはごく普通の会社員だって、自分の子供たちからすればスーパーヒーローなんだし。

それはランドの意図した読まれ方ではないけれど、私は、アトラスのスーパーヒーローとアンチヒーローをそんな風に解釈している。

アトラスのエディーが言っていた、

In the name of the best within us…

ってそういうことだと思っている。