SHARE

Twitter

Facebook

  • TwitterTwitter
  • FacebookFacebook
  • YouTubeYouTube

BLOG

2018.04.22

「ロビン・フッドはよくない」とは

Category : 作品
Author : 脇坂あゆみ

レックス・ティラーソンが国務長官に指名されたとき、アイン・ランドでてるよ、とワシントンポスト紙の記事を送ってくれた外務省の友人が、先週、「うちの大臣もリバタリアンだったとは。。」とこんな記事を送ってくれました。(注:ランドが好きだからといってリバタリアンというわけではありません。念のため)

外務大臣の河野太郎さんは、ジョージタウン大学留学時代、『水源』を読んで大いに鼓舞された、とのこと。建築家のハワード・ロークに共感したとか。

私もジョージタウン大時代、山積みの課題図書がつらくてランドを読むのは唯一純粋な楽しみだったのと、大臣がオルブライト元国連大使のゼミだったのに対して自分はレーガン政権の国連大使だったカークパトリック女史の授業をとっていたりして、似たような気分だったのかも。

ちなみに記事にでてくるデューポンサークルのKramerbooks & Afterwardsカフェでは、学部時代どれだけ徹夜したかわかりません。本屋でなく、深夜カフェとしてですが。

さて、いくつか気になったことがあって。

河野大臣がこの本屋で『水源』を手に取ったのは、ハーバードのサマースクールのルームメイトが読んでおり、「ロビンフッドはよくない、という本」というのが印象に残っていたからとか。

「ロビン・フッドは全然出てこなくて、建築とか設計の話になった」けど、面白かった、とのことですが、ルームメイトが読んでいたのは、『肩をすくめるアトラス』ではないかしら…?  そこには、ロビン・フッドと戦う海賊が出てくるので。

それと、写真の河野大臣の本棚にはペーパーバックのAtlas Shruggedがあるけれど、大臣は読まれているのかしら? 同じ本棚の『波乱の時代』にはアラン・グリーンスパンとランドの関わりが詳しく書かれていたりもします。

だとしたら、ティラーソンは辞任しましたが、次の国務大臣マイク・ポンペオもアトラスのファンですから、日米の外務大臣がランドの読者ということに。

外交といえば、書棚のFrom Beiruit to Jerusalemもジャーナリスト、トム・フリーダンの中東問題に関する名著。みんな読んでる本かもしれないけど、急に河野大臣が気になってきました。

ロビン・フッドと戦うラグネル・ダナショールドと、鉄鋼王ハンク・リアーデンの会話はこちら。

=========

「僕には滅ぼしたい男がいる。何世紀も前に死にましたが、その男の痕跡が人の心から完全に消しさられるまで、僕たちはまともな世界で生きていくことはできません」

「誰のことだね?」

「ロビン・フッドです」

リアーデンは理解しかねて、呆然と彼を見つめていた。

「彼は金持ちから盗んで貧乏人に与えた男です。ならば僕は貧乏人から盗んで金持ちに与える――より厳密に言えば、泥棒の貧乏人から盗んで生産的な金持ちに返すのです」

「いったい何が言いたいんだね?」

「僕に関する事件が掲載されなくなる前の新聞記事を思い出していただければ、僕が一度も民間の船を襲って私有財産を奪ったことがないことがおわかりでしょう。それと軍艦を襲ったこともない――軍の艦隊の目的は、金を拠出した市民を暴力から守ることであり、それは政府の妥当な機能ですから。ですが僕は、射程内にきた略奪船はことごとく、すべての政府救援船、補助金船、借款船、贈与船、稼いでもいない他人への無償の福祉のために特定の人びとから武力によって取り上げられた品物を積んだ船という船を襲いました。

僕は僕の敵である思想の旗を掲げる船を襲ったのです。それは必要が人間の犠牲を要求する神聖な偶像であり、ある人間の必要は別の人間の上にかかるギロチンの刃であるという思想です。その思想によれば、人はいつその刃が降りてくるとも知れずにすべからく仕事をし、希望をもち、計画をたて、努力を重ねて生きていかねばならず、能力の高さが危険の高さとなり、成功は人の頭を断頭台に置くが、失敗はギロチンの紐を引っぱる権利を与える。これこそロビン・フッドが正義の理想として不滅にした恐怖なのです。

彼は略奪する支配者と戦い、奪った品を被害者に返したと言われていますが、残された伝説の意味は違っています。彼は財産ではなく必要のために戦う闘士として、被害者の擁護者ではなく貧乏人の救済者として記憶されています。彼は、所有してもいない富によって福祉を行い、生産してもいない品物を分け与え、彼の慈悲という贅沢を他人に支払わせることによって美徳の栄光を受けた最初の男とみなされています。

彼は業績ではなく必要が権利の由来であり、生産の必要はなくてただ欲すればよく、稼いだものは自分のものにならないが稼いでいないものは手に入るという思想の象徴になった男なのです。上層階級の者から盗んだものを代償にして下層階級の者たちに自分の人生を捧げると公言することで、自分より優秀な人びとの財産を思うままに操る力を要求するみずから生計をたてられない凡人すべての弁明理由になった人間です。

人が道徳的理想とみなすようになったのはこんな人物――貧しい者の痛みと富める者の流血によって生きる、この実におぞましいやつらなのです。そしてこれは、人が生産すればするほど権利を失うようになり、能力が偉大であるほど、いかなる請求者の餌食にもなる権利のない生きものになり――一方で権利や原則や道徳を超越し、略奪だろうが殺人だろうが何でも許される地位につこうとすれば、必要を有していればよいだけだという世界をもたらした。

世界がいま崩壊しているわけです。リアーデンさん、僕はそれと戦っているのです。あらゆる人間の象徴のうちで、ロビン・フッドがもっとも非道徳的で軽蔑すべき存在だと人が知るときまで、この世には正義もないし、人類が生きながらえる道もありません」

(『肩をすくめるアトラス』第二部 二者択一 第7章「頭脳のモラトリアム」より)